いちごが安定的に美味しく、年中出回るために日々品種改良や研究がなされています。その中で重要なのはその美味しさをどの様に評価し、基準を作っていくかも同じぐらい大切です。今回はそんな美味しいいちごの評価に関する論文を紹介します。
そもそも科学的に分析するということは?
人が美味しいと感じるいちごにはそもそも科学的にどの様な基準が必要なのでしょうか?それは、いちごの味の要素になっている成分の割合や比率を分析した後、人間が実際に食べることで、調べます。人間の舌で美味しいと感じた品種や収穫後の状態のいちごの実際に含まれている成分を解析し、その割合や比率で、人間が食べなくても美味しいいちごだと判断することができるのです。
味覚に左右されるのは、主に含まれている糖分の量や種類、有機酸の量によって決まります。有機酸とは、果実や野菜に含まれる酸っぱいと感じ栄養素にもなるクエン酸やリンゴ酸、お酢といった調味料や発酵食品に含まれる乳酸や酢酸の総称を指します。人間が味覚で感じる酸っぱいと感じる味です。
いちごの場合においては、糖分の場合はブドウ糖、果糖、ショ糖といった糖分が含まれており、100gにおける成分量は以下の数値となっています。
成分名 | 値 | 単位 | |
利用可能炭水化物 | ブドウ糖 | 1.6 | g |
果糖 | 1.8 | g | |
ショ糖 | 2.5 | g | |
合計 | 5.9 | g |
成分名 | 値 | 単位 | |
有機酸 | リンゴ酸 | 0.1 | g |
クエン酸 | 0.7 | g | |
有機酸計 | 0.8 | g |
有機酸はいちごに主に含まれる有機酸はクエン酸とリンゴ酸です。しかし、糖質や有機酸の量の数値はこの様に手軽に調べることが出来ますが、これはあくまで100gのいちごの数値という定義であって美味しさとは関係ありません。今回の研究は含まれる成分と人間の味覚の関係調べ、より美味しいいちごの評価を調べました。
どの様に検証をしたのか?具体的なその方法
いちごを評価に関しては、まず同じ条件で栽培したいちごが必要になります。そのため、43種類(日本の品種29:海外14品種)をこの実験では揃えました。野菜茶業試験場久留米支所で、同じ肥料を与えたいちごを、9月から育て始めて、促成栽培(早く育てる栽培法)の1月中旬から3月中旬までに栽培したいちごの果実、露地栽培の場合は5月下旬の果実で完熟した物を瞬間冷凍しました。
糖分に関しては、凍結したいちごから糖分を50%のエタノール抽出し、果実の重さ100倍に希釈した液を高速液体クロマトグラフィーと呼ばれる機械で、ブドウ糖、ショ糖、果糖の量を調べました。加えて、それぞれ、全体の糖分から何%含まれているのかという割合も算出しました。
有機酸に関してはイオン交換水に入れて20倍希釈をした後、高速液体クロマトグラフィーにかけて分析し、有機酸の全体の割合で何%含まれているかという割合も、糖分同様に計算しました。
人による味覚試験は試験場の男子研究生15名によって行われ、促成栽培されたいちごは1月~3月までの1回ずつ、露地栽培のものは5月の1回の4階の味覚試験を行いました。単に、美味しいということを評価するのは難しいため、相対評価の基準として、『とよのか』を5とし、食したいちごを(1~7)の数値を付けた評価を使用しました。
加えて今回は収穫時期によって同じ品種でも、味覚評価に変化が出るのかを数値化し、その変動の相関を調べました。
実際に美味しかったいちごとは?
人間が実際に食べて美味しいと感じ、『とよのか』よりも評価が高かった国内品種は『さちのか』、『ひのみね』でした。しかし、収穫期間の時期で味の変動がなかったのは、『媛育』でした。
美味しいを感じる『とよのか』含めた5の評価を持ついちご群と3.5以下の評価がついたいちごを調べてみると美味しいと感じるいちごには全糖分量が多いだけではなくて、有機酸の量が相対的に少なかったのです。いちごに含まれるショ糖と有機酸を割った数値で優位に高いものは特に美味しく人間には感じる品種ということがわかりました。
収穫時期によって味覚の変動が起こる要因として、果実に含まれるショ糖は果実の熟成度合いでの変動が大きいとされ、旬のものには多くのショ糖が含まれるためより美味しいということなのです。旬のいちごが同じ品種でも路地栽培が美味しいとされるのはこうした要因から来るものなのです。
安定的ないちごの美味しさの秘密
この研究で判明したことは基準に使用された『とよのか』は今回の43品種の中で糖分の含有量が高く、収穫時期や栽培方法関係なしに安定した美味しさを示していました。味の美味しさで一番の評価が非常に優れていた品種である『さちのか』の場合は、ショ糖を有機酸で割った数値が高く、加えて全糖質量高かった。加えて、時期に関係なく、ブドウ糖の量が多いという特徴を持っていました。
つまり安定的に時期関係なく美味しいいちごを市場に提供するには、全体の糖質量が多く、加えてショ糖の量が多いこと、そして有機酸の含まれている量が収穫時期関係なく安定していることがより良い品種を生み出していくために大切ということが今回の研究で判明しました。
しかし、この研究は栽培方法の差や収穫時期が異なる果実を食した時の味覚をいちごの成分に関する相関を示したものであり、人間がいちごを美味しいと感じる他の要素に関しては考察されておりません。人間が果物を美味しいと感じる他の要素として、香りや果実の硬さ、肉質、そして実の色と言った要素を含めた総合的な検討をする必要があります。
美味しいいちごを流通させるためには、品種改良という努力もありますが、品種改良をしたいちごを相対的に評価することも大切です。加えて時期関係なく美味しいものを提供するためには、その基準をより良くする研究を今回ご紹介いたしました。
まとめ
いちごには多くの品種が存在し、品種ごとの美味しさの差に関しては検証されてきました。しかし、この実験が行われるまでは、栽培方法や収穫時期を加味した同品種での味の違いや具体的な美味しさを決める糖質の種類を特定するまでは調べられていませんでした。そのため、今回の研究で、3つの糖分の中で一番甘く感じるショ糖が多い品種で、酸味が少ない品種が、人間は美味しく感じることが判明しました。
しかし、この研究は味覚の要素に着目した研究のため、よりよい基準を作るには、香りや果実の色、食感も含めて美味しさの評価を作り出す必要があります。
参考文献
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