ー栽培期間中農薬不使用の挑戦ー
真っ赤に輝くいちごを口に含んだ瞬間、ふわりと広がる甘さとみずみずしさ。日本を訪れる外国人観光客の間でも、「日本のいちごは世界一美味しい」と評判が高い。しかし、その美味しさの裏側には、農家の並々ならぬ努力が隠されている。
今回お話を伺ったのは、栽培期間中農薬不使用でいちごを栽培する、貴彩ガーデンの福山さん。
観光農園を運営し、国内外から訪れる人々に”安心して食べられるいちご”を提供している。
なぜ「元気ないちご」にこだわっているのか、その背景や信念、そして訪日観光客がこのいちごを求めてやってくる理由について、お話を伺った。

■美味しいいちごを育てる、その理由とは?
——まず、なぜ元気ないちご作りにこだわるようになったのでしょうか?
福山さん:「美味しいいちごを作るにはどうしたら良いかを追求した結果、”元気ないちご”を育てることが重要だと考えたんです。
人間もそうですが、健康な体であれば病気になりにくいですよね。いちごも同じで、強く健康に育てば、結果的に農薬を使わなくても病気になりにくくなるんです」
通常、いちごは3~4日に一度のペースで消毒するのが一般的。しかし、それでは植物本来の持つ力が弱まってしまうと福山さんは語る。
福山さん:「”元気ないちご”に育てるためには、病気に強い土壌を作ることが大切なんです。そのために、微生物の力を借りています」

■”微生物の力”を活かした、こだわりの土作り
貴彩ガーデンが行っているのは、土の中の微生物を活性化させる栽培方法だ。
福山さん:「微生物のエサを撒くことで、土壌のバランスを整えています。微生物が増えると、土壌がふかふかになり、いちごの根がしっかり張るようになります」
また、貴彩ガーデンでは、堆肥にもこだわりがあるという。
堆肥を入れると、逆に病害の原因になってしまうリスクもあるが、ここではそのようなリスクを低減できる特殊な堆肥を使用しているという。
福山さん:「この堆肥を使うことで、より安定した土壌環境を作ることができるんです。だからこそ、農薬不使用でも健康ないちごが育つんですよ」
■いちご本来の力を引き出す栽培方法
実際に、貴彩ガーデンで育てられたいちごを食べてみると、その違いは一口でわかった。
「甘い!」と思わず声が出る。
口に入れた瞬間に広がるのは、濃厚な甘みと芳醇な香り。一般的ないちごよりも果肉がしっかりしており、噛むたびにジュワッと果汁が広がる。しかも、後味が驚くほどすっきりしている。
福山さん:「この農法だと、糖度も自然に上がるんです。今年計ったら14.8度ありましたよ。」
一般的ないちごの糖度は10度前後。それを大きく上回る甘さだ。それも、甘みとコクだけでなく、やさしい後味が感じられる。
福山さん「 農薬不使用で育てると、えぐみがなくなるんです。普通のいちごは、農薬の影響で微妙に舌にピリッとした感覚が残ることがあるんですが、うちのいちごはそれがない。甘さがストレートに感じられるんです」
また、農薬を使わないことで、いちごの葉が自らの力で害虫から身を守ることができるという。
「消毒を頻繁にすると、いちご本来の抵抗力が失われてしまいます。でも、農薬を使わずに育てると、葉っぱが自ら害虫を遠ざける成分を出すんです。自然の力ってすごいですよね」

■ 栽培期間中農薬不使用の壁と、その先に見えた光
ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。特に苦労したのが「うどんこ病」だという。
いちごの苗は非常にデリケートで、多くの病原菌や害虫に狙われやすく、農薬を使わずに栽培するのは極めて難しい。
特にうどんこ病は、感染してしまうといちごの商品価値が失われてしまう上、一度発生すると拡がるスピードも早いため、苦しめられている農家も多い。
福山さん:「普通なら農薬で対処しますが、うちは有用微生物を数日間に一度散布することで対応しています。」
さらに、ある発見が大きな転機となった。
福山さん:「実は、うどんこ病などの病原菌に非常に強い菌があるんです。うちでも試したら、菌が病気の進行を食い止めてくれました。」
こうした試行錯誤の積み重ねが、現在の農法につながっている。
■海外観光客が求める”安心・安全”ないちご
栽培期間中農薬不使用で育てられた貴彩ガーデンのいちごを求めて、海外からの観光客が増えてきているという。
福山さん:「最近は、海外のお客様も増えています。特に中国をはじめ、ベトナムやインドネシアなど、東南アジアの方が多いですね。日本の甘くて品質の高いいちごは、かなり注目されている傾向のようです。うちのいちごは農薬不使用なので、子ども連れのご家族も安心して食べられると喜ばれています」
また、海外ではオーガニック食品への関心が高く、農薬を使わず栽培されたいちごのいちご狩りは、美味しさと”食の安心”を兼ね備えており、今後、外国人観光客にとって魅力溢れるアクティビティとなる可能性が高い。
訪日観光客の増加に伴い、貴彩ガーデンでは、外国人観光客向けのハウスを増設することを検討しているという。
福山さん:「海外の方のカルチャーに合わせたルールでいちご狩りが出来るハウスが作れたらと考えています。いちご狩りを楽しみながら、日本の農業のこだわりを知ってもらえる機会になれば嬉しいですね。」

■”本当に美味しいいちご”を求めて
栽培期間中農薬不使用でいちごを育てるには手間も時間もかかる。しかし、福山さんは「手をかければかけるほど、いちごは応えてくれる」と語る。
福山さん:「やっぱり、美味しいいちごを作るのに一番大事なのは、元気ないちごに育てること。
結果的に、農薬を使わずに育てることで、味も品質も向上しました。これからも、多くの人に”いちご本来の味”を楽しんでもらいたいですね」
日本のいちごは、多くの人々を魅了する。その中でも、貴彩ガーデンのいちごは、”安心”と”美味しさ”を兼ね備えた特別な一粒。ぜひ、訪れて味わってみてほしい。
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