今回は熊本で無農薬、無化学肥料でいちごを育てている「農薬ゼロのだいしん農園」へ取材に行ってきました!
大多数のいちご栽培では農薬を使っているのですが、それはいちごが病気などに強い作物ではないからです。しかし、こちらでは完全無農薬で栽培しているということで、一体どのような工夫をされているのだろうと興味津々でした。
無農薬にするための秘訣やこれまでのご苦労などを伺ってきましたので、是非、いちご好きの皆さんにも知っていただければと思います。
無農薬のいちご栽培を始められたきっかけについて教えてください。
私は30代の時に難病を発症し、食を見直す機会があり、化学物質過敏症などもあったので流れで先に農業を始めていました。その後、主人に広島へ転勤の話があり、たまたま田植えが忙しく手伝ってもらったことがきっかけでスイッチが入ったようで、「転勤しないで農業をしようかな」と彼が言い出したのです。その頃は、子供が中学生で家も建てていたので、夫婦で農業をすることは難しいと思っていました。
しかし、彼の決心は固かったようで、車も時計も全部売って軽トラックに乗り換えたので、これは本気だなと感じました。
農業を始めて4,5年は収入があまりなく、食べることにも苦労しました。
今年、息子が大学に入学したのですが、高校の時に進学したいと言われた時はまだ、いちご栽培がうまくいっていなかったので、とても困りましたね。
背水の陣とはまさにこのことで、いちご農家をやめるか家を売るかのどちらかというところまできたのですが、そこから軌道に乗り、今でもいちごの栽培を続けられています。
最近では、これまでのことを思い出しながら、自分たちが俯瞰できるように楽しんでいれば、苦しいときであっても味わい尽くすのもいいかなと感じています。我が家は夫婦が良きライバルであり、いちごにかける思いはそれぞれですが、喜んでもらえて笑顔があるからこそやめられないですよね。
農薬ゼロのだいしん農園で、いちご栽培をされるようになったのはなぜでしょうか。
私も主人もかつてはサラリーマンで、だいしん農園の楠田大伸さんは元々、トヨタで整備の仕事に携わっていました。楠田さんの実家がいちご農園であり、ご両親が体調不良で倒れられて後継になられた時に、私が近所の仲間たちと手伝っていたことがご縁で一緒にいちご栽培に携わるようになりました。
私はこれまで色々な病気にかかったことがあるのですが、それがきっかけで食を見直すようになりました。その時、無農薬のいちごはあまり見かけないと思い、楠田さんに「せっかくなら、無農薬のいちごをやってみよう」ということで提案をしました。
楠田さんも当初は、お父様と一緒に3年ほど普通の慣行農業をされていましたが、お父様が農薬で体調不良になってしまったため、どうしたら農薬を減らせるのかと考えていたようです。そして、お父様が亡くなったことをきっかけに無農薬栽培を始めることにしました。
きちんと収穫できるまで、かなり時間がかかりましたか?
慣行農業のいちごだと収穫量が1反で4、5トン、熊本のゆうべにという品種だと7トンほどと言われています。
しかし、農薬や化学肥料、家畜肥料、除草剤を使わない環境でいちごを育てるとなると1反に1トンしか収穫できません。楠田さんによるとまだ収量は伸びると言うのですが、まだ発展途上なのでこれからですね。
現在、こちらで収穫したいちごは全て予約で埋まっており、半分以上は個人宅です。その他、東京であればナチュラルハーモニーさんや銀座の資生堂パーラーさんの10階FAROさんなどたくさんのデパートや関西であればAlter(オルター)さんなどで取り扱って頂いています。
農園の苺を残留農薬、放射能検査、抗酸化力、ビタミン含有量などのデーターをとって機能性食品として販売されている業者さんもありますね。
無農薬のいちご農園は、これからも広げられる予定でしょうか?
最近、ハウスを新しく借りることができたのですが、これまで慣行農業をされていたところなので今はトウモロコシを植えながら、土作りで様子を見ているところです。
私たちの農園では、いちごを全て収穫してから白い手袋をはめて、ヘタの裏に虫がついていないかどうか全てチェックしています。どんなに無農薬だと言っても、虫がついていてはいけないという考えの元で行っています。配送をすると傷みも早いので、いちごは一般的にクレームが多いのですが、今シーズン、ゼロです。
加工用苺は、オーガニックのカフェなど食材にこだわっているお店にB級品として出荷しています。
苺のチェック作業は夜中までかかってしまうので正直言うと、この収量で手一杯ですね。ですから、オーガニックの農園をやりたいと言う方がいれば、同じような農家が増えて欲しいという思いもあるので、全部教えていきたいと思っています。
無農薬をするにあたり、工夫されていることがあれば教えてください。
劇的にいちごの無農薬が楽になったのは、天敵が出てきてからです。ハウスでいちごの栽培を行っていたとしても、自然界には天敵がいます。アブラムシにはてんとう虫といったように。
てんとう虫も販売しているのですが、100匹で7、8千円ほどするので、30分程てんとう虫を取りに行く時間を作って、それをハウスに入れるようにしています。
他にも、生物的な農薬は使うのでしょうか。
ダニには、ダニを食べるダニがいるので使いますね。
また、最近はアブラムシ対策としてアリを味方につける方法を試している農園があります。アリがいればアブラムシがいるので皆さん嫌いますし、アリを駆除しようとします。
そうではなく、アリに甘いもの、つまり糖蜜を先に与え、甘いものはもう欲しくない状態になったら今度はアブラムシをタンパク源として食べてくれるというエビデンスが一つ見つかったため、イチゴジャムのようなものを所々に置いて実験しているようです。
私も始めた頃はうどんこ病やアブラムシなどを駆除しようという思考で栽培していたため、全くうまくいかなかったのですが、それを活かす方法にした時に激変しましたね。
お米も同じで、楠田さんが言うには、ジャンボタニシを全て駆除しようと思っていると雑草が生えてしまう。そうではなく、ジャンボタニシを味方にして水の加減を調整することで簡単に無農薬のお米ができるようになったと。
毎年が実験であり、気づく力が試されていると痛感しています。
ハチについても、1、2年目の頃は8万円ほど出してレンタルをしていたのですが、ミツバチ泥棒にあってしまいまして。今思うと、あれはニホンミツバチに変えなくてはいけない事件だったと思っているのですが、それから巣箱作りなどの勉強をして、今年は10箱ほど巣箱を作りました。
奥の畑はこれまで野菜を作っていたのですが、今はハチのためにレンゲを植えています。
無農薬のいちご栽培をされていて、大変だったことは何でしょうか。
私たちは作っていて楽しいから続けていきたいと思っていますが、育苗が毎年難題です。土づくりの数年も氣づきや学びや試練の時期でした。
こちらのいちごを使ったスイーツを取り扱っているお店はありますか?
熊本県上益城郡にある幣立神宮すぐのパン工房ヤマGENさんでは、天然酵母のパンやピザを販売されているのですが、いちごがある時期はケーキやマフィンなどのお菓子を作られています。楠田さんが自分たちのいちごを使ったお菓子が食べたいということで、先日、社員旅行を兼ねて行ってきました。
ご近所にも農園の苺で芸術品を生み出してくれる天才パティシエikushiro
さんをはじめ全国にたくさんご愛用して頂いています。苺が繋いでくれたご縁は大切にしていきたいと思っています。
大手さんが入ってくると全量買い取りの話もあるのですが、これまで個人のお客様に支えていただいたのでそこはお断りしています。
ただ、無農薬で作っている人たちが皆さん、生活していけるようにするためには、子供達などに向けて販売している価格とは別のブランドを立ち上げなくてはいけないとも考えています。
<参考サイト>
農薬ゼロのだいしん農園
https://www.munouyaku.jp
農薬ゼロのだいしん農園 Facebook
https://www.facebook.com/nouyakuzero/
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